2025/09/05 19:17
犬の皮膚は、人とは少しちがって 弱アルカリ性(pH7.0〜8.5) に保たれています。
人は弱酸性、犬は弱アルカリ性。
同じ皮膚なのに、どうしてこんな違いがあるのでしょうか。
今日はその理由を、4つに分けて考えてみます。
1. 被毛が守ってくれるから
犬は厚い被毛に覆われています。
その毛が紫外線や乾燥、雑菌といった外からの刺激を受け止めて、皮膚を守ってきました。
人は体毛が少ないため、皮膚そのものを弱酸性の皮脂膜で守る必要がありましたが、犬は「毛」という自然のプロテクターを持っていたのです。
もちろん、犬種によって被毛の量や質はさまざま。
ただ、犬の皮膚が弱アルカリ性である理由は被毛だけでなく、ほかの要素とも関わっています。

2. 汗をかかない体質
人の皮膚が弱酸性なのは、全身にある汗腺から出る汗のおかげです。
汗に含まれる乳酸や尿素が皮膚を酸性に傾けてくれます。
一方、犬には肉球や鼻にしか汗腺がありません。
そのため皮膚を酸性に保つことが難しく、自然と中性〜弱アルカリ性に落ち着いているのです。
3. 薄くて、新陳代謝が速い皮膚
犬の皮膚は人のわずか1/3ほどの薄さしかありません。
しかも新陳代謝(ターンオーバー)は、人が約28日かけて行うのに対して、犬は20日ほど。
厚みを増して酸性バリアで守るよりも、「新しい皮膚に早く入れ替えて守る」しくみを選んだといえるでしょう。
4. 常在菌との共生
皮膚にすむ常在菌も、その環境に合わせて生きています。
犬の皮膚にいる菌たちは弱アルカリ性の環境に適応し、このバランスのなかで健康を保っています。
人が酸性の皮膚バリアで菌を整えているのとは、少しちがうかたちの共生です。
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こうして見ていくと、犬の皮膚が弱アルカリ性であることには、いくつもの理由が重なっているのがわかります。
〇 被毛に守られていること
〇 汗腺が少ないこと
〇 皮膚が薄く、代謝が速いこと
〇 常在菌がその環境に合わせて暮らしていること
これらが積み重なって、人とはちがう弱アルカリ性の皮膚が形づくられているのです。
📖 犬の皮膚の厚さやpHの数値については、以前の記事でもご紹介しています。
小多福堂が大切にしているのは、犬の皮膚から必要なうるおいを奪わずに、やさしく汚れだけを落とすこと。
そのために、食用グレードの植物オイルや和漢素材を中心に石鹸を仕立てています。
これからも犬の皮膚の生理学に関する勉強を日々続けながら、
犬の皮膚に本当にやさしい石鹸づくりにつなげていきたいと思っています。
参考文献
〇 Miller WH, Griffin CE, Campbell KL. Muller and Kirk’s Small Animal Dermatology. 7th ed. St. Louis: Elsevier; 2013.
犬・猫・小動物の皮膚疾患を網羅的に扱う獣医皮膚科の代表的教科書。犬の皮膚の厚さ、pH、常在菌の生態といった基礎情報から、臨床症状・診断・治療まで幅広く解説されています。
〇 Campbell KL, et al. Small Animal Dermatology Secrets. Mosby; 2001.
犬と猫の皮膚に関する基礎知識をQ&A形式でまとめた実践的ハンドブック。皮膚の構造や生理学的特徴、臨床でよく出会う皮膚疾患の整理に役立ちます。
〇 Hensel P, Santoro D, Favrot C, Hill P, Griffin C. Canine atopic dermatitis: detailed guidelines for diagnosis and allergen 〇 identification. Vet Dermatol. 2015;26(1):1–28.
犬のアトピー性皮膚炎に関する国際ガイドライン論文。皮膚バリア機能や常在菌との関係、pHの影響など、犬の皮膚の生理学的背景が詳しくまとめられています。
〇 DeBoer DJ, Marsella R. The ACVD task force on canine atopic dermatitis: skin barrier function. Vet Immunol Immunopathol. 2001;81(3–4):233–239.
犬の皮膚バリア機能を免疫学的観点から解説したレビュー。皮膚の弱アルカリ性環境が感染や炎症にどう関わるかが示されています。
〇 『獣医師監修 犬の皮膚被毛ケアリスト認定講座テキスト』 一般社団法人 全日本動物専門教育協会
日本語で学べる犬の皮膚と被毛ケアの基礎教材。皮膚の構造や特徴、皮膚被毛トラブル、定期ケアについてなどを平易に解説しています。
〇 『トリマーのためのベーシック獣医学』 ペットライフ社
犬の解剖学・生理学を基礎から学べるトリマー向け入門書。皮膚の厚さや新陳代謝、汗腺など、記事で紹介した内容の土台になる知識が整理されています。