2025/09/20 20:14
今日、台所用石けんを作っていてふと気になったんです。
「そういえば昔の人は、どうやってお皿洗ってたんやろ?」って。
せっかくなので、日本の台所の歴史をちょこっと旅してみました。
「そういえば昔の人は、どうやってお皿洗ってたんやろ?」って。
せっかくなので、日本の台所の歴史をちょこっと旅してみました。
江戸時代〜明治のはじめごろ
灰汁と米のとぎ汁でまかなう台所
日本の台所は、米と野菜と魚が中心。
油の少ない食生活でしたので、食器洗いには主に「米のとぎ汁」や「灰汁(あく)」が使われていました。
灰汁は木灰を水に溶かしたアルカリ性の液体で、油汚れを分解する力があり、米のとぎ汁やぬかも、昔ながらの洗浄の主役でした。
実は、世界の石けんの始まりもこの「灰汁」と関係しています。
古代ローマの「サポーの丘(Sapo Hill)」では、獣の脂と木の灰が偶然混じり合って石けんが生まれた、という有名な逸話が伝えられています。
つまり、日本も世界も、「灰汁」から清潔の知恵が始まったんですね。

明治(1868〜1912年)〜大正(1912〜1926年)
西洋文化と石けんの出会い
明治のころ、西洋文化が入ってきて陶器やガラスの食器が広まりました。
バターや肉を使った料理も増えて、油汚れには「石けん」が欠かせなくなります。
フランスのマルセイユ石けんや、ドイツのブラシ文化も紹介され、日本の台所に少しずつ取り入れられていきました。
昭和前期(1926〜1945年)
戦中は石けん不足、暮らしの知恵でしのぐ
昭和のはじめごろも、台所ではまだ石けんが主役でした。
けれど戦争が近づくにつれて、石けんの原料である油脂は、
爆薬の原料となるグリセリンを製造するためにも使われたため、戦時中は極端に不足し、十分に行き渡らなくなります。
そのため、米のとぎ汁や灰汁をもう一度使ったり、石けん代用の粉を工夫して使ったりと、暮らしの知恵でしのいでいました。
食器もまだ木や陶器が多く、金属食器は軍需で制限されることもありました。
昭和中期(1945〜1960年ごろ)
戦後復興と、合成洗剤の技術が入ってきた時代
戦後しばらくの台所は、まだ石けんが主役でした。
ただ生活物資が不足していた時期でもあり、石けんも貴重品。
家庭では石けんを大事に使いながら、米のとぎ汁や灰汁なども引き続き役立てていました。
この頃、日本にアメリカから合成洗剤の技術が導入され、研究や製造が始まります。
けれど一般家庭で使われるようになるのはまだ先のこと。
1950年代後半から、少しずつ市場に登場し始めた段階でした。
昭和後期(1960年代〜)
合成洗剤とスポンジが台所の主役に
戦後の復興が進み、暮らしが豊かになっていくと、台所にも大きな変化が訪れました。
揚げ物や肉料理が日常に増え、ステンレスやプラスチックの食器も一般的になります。
この時期に登場したのが「合成洗剤」と「スポンジ」です。
テレビCMなどの影響もあって爆発的に普及し、「泡で油を落とす」という新しい価値観が広まることで、台所文化は一気に変わりました。
便利さの影で、手荒れや環境への負担を心配する声も少しずつ聞かれるようになります。
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ここで少し「合成洗剤」のちょこっと話
合成洗剤の物語は、海外から始まった技術革新のひとつです。
第一次世界大戦中のドイツでは、伝統的な石けんの原料である動物性脂肪が手に入りにくくなったことから、
アルコールやナフタレン由来の界面活性剤を使った合成洗剤が作られ始めました。
1920〜30年代にかけて、ドイツやアメリカで合成界面活性剤を用いた洗剤が普及し始め、
家庭での洗濯や台所洗いにも登場するようになります。
同時に、日本でも1960年代ごろから、合成洗剤が台所を含む家庭の洗浄文化を大きく変えていきました。
泡の力で油をさっと落とすことが「便利さ」の象徴になったのです。
ただ、合成洗剤の普及によって川や湖に流れ込む化学物質やリンなどの影響も無視できなくなりました。
たとえば、琵琶湖などでの富栄養化問題が、洗剤中のリンを含む成分と結びつけられ、
業界全体で「リンを減らした洗剤への切り替え」が進んだ歴史があります。
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平成〜令和
便利さの先に、再び見直されるシンプルな道具
いまの日本の食卓は、世界中の食材で彩られています。
豊かになった一方で、改めて「シンプルな洗い方」への回帰も始まっています。
固形石けんや棕櫚たわし、セルローススポンジなど。
昔ながらの道具が、現代の暮らしに合った形で見直されているのです。
大切にしたいこと
食文化が変われば、洗い方や道具も変わります。
でも、どの時代でも共通しているのは、
「大切な資源を、無駄にせず、感謝していただく」こと。
小多福堂は「犠牲にしない」選択を大切にしています。
犬の皮膚を犠牲にしない、環境を犠牲にしない。
そして台所でも、資源を大事にしながら清潔に整えたい。
白い石けんがひとつ台所にあるだけで、暮らしはちょっと優しくなる。
そんな風景を、日本の台所に届けたいと願っています。

さて、私も食器を洗います。
参考文献・資料
・『石けん百科』(NPO法人石けんの会)
・環境省「合成洗剤と水環境」資料
・滋賀県「琵琶湖の富栄養化対策の歩み」
・環境省「合成洗剤と水環境」資料
・滋賀県「琵琶湖の富栄養化対策の歩み」